ウォーターサーバー業界のビジネスモデルとは?プレミアムウォーターホールディングスの戦略から紐解く業界ビジネス
これまで宅配水、ウォーターサーバーの収益構造について考えたことはあるだろうか。実際に利用されている方や商業施設などでの対面販売、あるいは引っ越し時の不動産会社からの提案などで一度は関わりがあったと思う。
私自身実際に利用をしており身近にある存在ではあるものの、この業界・ビジネスについて深く考える機会がなかったが、コロナ禍での需要も大きいようで、この機会に同業界及び業界トップ企業の収益モデル、競合優位性や今後の戦略などについて読み解いていきたい。
目次
プレミアムウォーターホールディングスとは
プレミアムウォーターホールディングスは、株式会社ウォーターダイレクトと株式会社エフエルシーが経営統合し、持株会社体制へ移行したことに伴い商号変更により設立された会社である。
調べている中で驚いたが、ウォーターダイレクトは、富士山の銘水株式会社の粟井英朗氏、デジタルハーツホールディングスの玉塚元一氏、レオスキャピタルの藤野英人氏、ベンチャーキャピタルのNTVPが設立した会社である。
2013年3月に東証マザーズに上場、2014年4月に東証2部に市場変更、そして2015年2月に株式公開買付けの結果、光通信の子会社となった。その後2016年7月、株式交換により同じく光通信グループである株式会社エフエルシーを完全子会社化。
会社分割により宅配水事業を2016年4月に新設した株式会社ウォーターダイレクト分割準備会社に承継し、純粋持株会社となり株式会社プレミアムウォーターホールディングスに商号変更した。
2020年3月期通期決算で、売上高約450億、営業利益18億、社員数835名の会社で、直近5年の成長率は20〜30%と右肩上がりに推移している。
ウォーターサーバービジネス業界地図
同業界の販売形態に関わる部分で、後ほど詳しくお伝えできればと思うが、「水」を商品として販売している会社という括りでは上記のようなマーケットの状況。住宅やオフィスなどのクリーンサービスやガスや電気などのインフラ事業をしている会社、あるいは小売販売として水を売っている会社まで、幅広い会社がある。
2016年時点(統合直後)は市場シェア11.8%で業界3位だったが、2019年には約24%のシャエアを獲得し、専門で水宅配専業で行っている企業としては、2位以下に圧倒的な差をつけて同社がトップのシェアを誇ってる。
最近では、メンタリストDaiGo氏を起用したCMなどで有名な霧島天然水のむシリカを提供している株式会社Qvouも直近業績を伸ばしており、認知獲得に手法が他社と比べても特徴的で個人的に今後も注目していきたい。
ウォーターサーバービジネスモデルの紹介動画
直近の業績
2021年第2四半期の業績は、売上高約271億(前年同期比+23.5%)、営業利益約21億(前年同期比+175.7%)であり、コロナ禍による在宅時間の長期化により水の消費量が増えた要因もあり堅調に推移している。
直近3年半の四半期売上収益の推移を見ても、直近は約140億(前年同期比+23.7%)と過去最高の売上収益でこちらも順調に推移している。
コスト構造
ご覧の通り、売上原価はほぼ同水準である一方、顧客数の増加とともに販管費が増加しており、売上原価及び販管費総額は130億(前年同期比+17.2%)となっている。
有価証券報告書での売上原価並びに販売費及び一般管理費の内訳は上の表の通りで、意外にも配送料が約110億もかかっており、かなりのコスト負担になっていることが分かる。
ちなみに、「契約コスト」とは契約を獲得するために生じたコストのうち、仮に契約が獲得されなかったならば発生しなかったであろうコストのこと。また、販売手数料は同社の取次店が顧客を同社に紹介した際に、顧客のミネラルウォーターの購入本数に応じて取次店に支払う手数料である。
ウォーターサーバー ビジネスモデルと具体的な事業内容
参照元:有価証券報告書
同社は独自のウォーターサーバーと収縮性のあるPETボトルを使用し、宅配事業者に委託して顧客宅にボトルを直送し、顧客自身がボトルを処分することにより使用後の顧客宅からボトルを回収を不要とする「ワンウェイ方式」を採用。
宅配水市場の顧客数は、約435万ユーザーいると推定されており、1WAY方式は顧客数が年々増加している一方、2WAYここ5年ほど横ばいである。宅配の利便性や衛生的な観点、また昨今の物流事業者の事情も踏まえると、今後も1WAY方式が拡大していくと予想される。
同社のビジネスモデルは、投資回収型ストックビジネスモデルである。ウォーターサーバーの原価やデモ販売の人件費、催事場代、販売店への販売手数料などの費用は先行して発生する。その後、数年かけて宅配水の売上で継続的にコストを回収していく形である。
解約率は1.5%程度で、顧客を獲得するためのコストがおよそ3.3万円とのことで、それを考えた場合には、常にそのコスト以上の新規顧客を増やしていく必要がある。
次に同社の主な事業内容に関しては、大きく以下の3つがある。
・ナチュラルミネラルウォーターの製造
・ナチュラルミネラルウォーターの販売
・ウォーターサーバーの販売
ナチュラルミネラルウォーター製造
同社は水の安定供給及び地産地消を目的として、水源を分散する方針を取っている。上の図の通り、南阿蘇(熊本)、金城(島根)、朝来(兵庫)、富士吉田(山梨)、北アルプス(長野)の全国5箇所が稼働している。
更に昨年11月には、岐阜県に全国で6箇所目となる水源用地の購入を決定している。5つの自社専用の水源を保持・稼働していることは業界では同社にしかなし得ないことであり、これは同社が他社と比較しても圧倒的な顧客開拓力があるため、工場の稼働率を落とすことなく、水源の稼働が可能になっているからだ。
また安定的な商品供給を実現するために、徹底してオート化された富士山麓の自社工場や、最新鋭設備を導入し、衛生面・生産面で大幅に能力を向上させている。また、最高品質への取り組みとして、FSSC22000認証工場による非加熱処理による充填を行っている。
水のおいしさにこだわり、安心、安全を約束する検査、管理体制を追求、採水からボトリング、梱包までを一括生産している。
ナチュラルミネラルウォーター販売
同社の販売方法に関しては、以下3つの顧客獲得チャネルに分類される。
直接販売方式
同社及び代理店による対面でのデモンストレーション販売、Web、テレマーケティングなどを通じて販売を行っている。顧客件数構成比率としては、デモンストレーションが60%、テレマーケティグが35%、Webが5%という形である。
コロナ禍で在宅ワークの増加によりアウトバウンドコールの接続率が向上した他、インターネット経由での受注が増加した。
取次店方式
取次店が、同社に顧客を紹介する方式。そのため、同社は紹介された顧客と直接の契約関係となり、取次店に対しては顧客の購入本数に応じた販売手数料を支払う形である。
取次店としては、家具、家電量販店、不動産、鉄道、電力、各種通販など、多様な事業会社と取引をしており、同社の認知度拡大に伴って取次店チャネルも拡がっている状況。
代理店・特約店・OEM方式
代理店・特約店は取次店と違い、彼らが直接顧客と契約関係を締結する方式である。そのため、同社は彼らに対して製品を卸売する形となっている。OEMについては、OEM先のブランド名で同社の製品を提供している。
ウォーターサーバーの販売
参照元:同社HP
直接販売、取次店及び特約店の顧客に対して、同社よりウォーターサーバーの貸与をしているが、代理店の顧客に対しては、代理店に卸売したウォーターサーバーを代理店から貸与している。
OEM先についても同様に、ブランド名を変更したウォーターサーバーを卸売している。基本的には「貸与」という形式だが、一部家電メーカーと共同開発した販売タイプのウォーターサーバーも取り扱っている。
ウォーターサーバービジネスの特徴と優位性
同社の他社との違いや特徴、優位性は以下3つが挙げられるのでそれぞれみていきたい。
・顧客獲得力
・製販一体型経営
・最高品質への取り組み
顧客獲得力
Webを除いた95%は対面やテレマーケティングによるアウトバウンドでの顧客開拓であり、ここの領域における顧客開拓力が他社と比べても圧倒的に強いのが特徴である。
元々統合前のエフエルシーがデモンストレーション販売で国内トップクラスの実力だったこともあり、光通信の子会社ということだけあって、BtoC領域での新規開拓力は際立っている。
組織作りに関しても、社員育成やモチベーション管理、評価制度まで一貫して営業社員の能力を引き出す仕組みが充実している。
製販一体型経営
開発からアフターサービスまで一貫して手掛けることができる事業形態を活かし、ダイレクトに顧客のニーズをとらえることでスピーディーに、より魅力的な商品・サービスの提供が可能となっている。
このような製販一体型の体制は、同社以外にもユニクロやキーエンスなど多くの優良企業で活かされている事業形態である。
最高品質への取り組み
同社の製品は「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」(農林水産省)に定められたナチュラルミネラルウォーターで、モンドセレクション2020でも「優秀品質金賞」を受賞。そのおいしさは、世界のプロから認められている品質レベル。
地下水脈からくみ上げた原水は、非加熱処理で4段階以上のフィルターで丁寧に除菌し、無菌のクリーンルームで新品のペットボトルにボトリングしている。
加熱処理をした水は、低コストで生産管理が出来るが、水のおいしさを引き立てる「溶存酸素」が激減する。そのため、溶存酸素が減少しにくい「非加熱処理」を行うことで、天然水本来の口当たりの良さ、まろやかさを実現している。
ウォーターサーバー ビジネス製品比較
会社 | 商品 | 水の種類 | ボトルの形状 | タイプ | 価格(500ml) | 宅配方式 |
---|---|---|---|---|---|---|
トーエル | アルピナ | RO水(純水) | 12L・18.9L ガロン |
床置き型 | 43円 | リターナル |
アクアクララ | アクアクララ | RO水(ミネラル添加) | 12Lガロン | 床置き型 | 50円 | リターナル |
ナック | クリクラ | RO水(ミネラル添加) | 12Lガロン | 床置き型 | 52円 | リターナル |
TOKAI | うるのん | 天然水(富士山) | 12Lボトル | 床置き型 | 75円 | ワンウェイ |
Beautiful Life | アクアセレクト | 天然水(三重県宮川) | 8Lパック | 床置き型 | 76円 | ワンウェイ |
プレミアムウォーター | プレミアムウォーター | 天然水(富士or北アルプスor南阿蘇or金城or朝来) | 7L・12Lペット | 床置き型 | 77円 | ワンウェイ |
コスモライフ | コスモウォーター | 天然水(静岡or京都or大分) | 12Lペット | 床置き型 | 79円 | ワンウェイ |
Kirala | キララウォーター | 天然水(富士山) | 7.2Lパック | 床置き型 | 80円 | ワンウェイ |
富士山の銘水 | フレシャス | 天然水(富士or木曽or朝霧高原) | 7.2L・9.3L パックorペット |
床置き型 | 80~81円 | ワンウェイ |
今後の成長戦略
直近は、保有契約件数が一定以上に達し損益分岐点を超えている状況であるため、利益率が上昇しているフェーズである。そのため、今後はよりいっそう新規顧客の開拓を推進しする計画である。
また、今後の構想としては、ウォーターサーバーから派生して、同社の顧客基盤を生かした生活インフラを中心とした商品・サービスの提供を行うことで顧客の満足度を向上させ、更なる売上利益の向上を図る。
総括|ウォーターサーバー業界のビジネスモデルとは?プレミアムウォーターホールディングスの戦略から紐解く業界ビジネス
元々は利益率の低いビジネスであったが、経営統合を機に一気に顧客基盤を拡大させ同業界での地位を確立することで、認知度の獲得や原価低減などビジネスが加速していると感じた。
今後も規模の経済効果により、更に競合との差が明確になり、顧客にとってもワンストップで生活インフラを提供する会社として、より一層なくてはならない存在になるのではないだろうか。